最後に言いたいことはないか。
死にたくない。
残念だ。それは認められない。恨むのだったら祖国を恨め。おれたちもお前を殺したくない。
殺さないでくれ。
駄目だ。おれたちの同胞は、数え切れないくらい殺された。そして、その死は誰にも知らされていない。むしろお前は仕合わせだ。皆にお前の死が知れわたる。
いやだ。殺さないで。家に帰りたい。
おれたちには家がない。全て破壊された。失うものはない。ただ、同じような目に合う同胞を作りたくないだけだ。
お願いだ。家に帰してくれ。
無理だ。もう終わったんだよ。お前はここに来なければよかった。おれたちの敵に味方した。
謝る。このとうりだ。
もう遅い。この国へ来る前に考えるべきだった。ひとはみな、考えようとしない。そしていざ自分の身が危うくなると真剣に考えるフリをする。
いやだいやだ。死にたくない。
もう時間だ。次は、後悔する前に考える人間に生まれ変わることだな。
真夜中に鳴くブラックバード
こわれた翼で飛んでみて
生まれてからずっと この時を待ってたはず
飛べ ブラックバード
飛べ ブラックバード
闇の中に射す一条の光に向かえ
了
Bravo の小説・目次
最後の詩は The Beatles の 「Blackbird」から引用。John Lenon & Paul McCartney 作。Bravo 訳。対訳には、アラン・ローゼン/福田昇八 著
「ロックの心 3」 を参照させて頂きました。