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わたしの夢
 わたしの夢。それは鉱山鉄道を経営することです。貨車にはたくさんの石炭を載せるのです。そしてそこではたらく人たちの顔は石炭の煤で真っ黒なのです。そのひとたちのそばを通ると、汗臭く、それがたまらなくいいのです。

 石炭を取るために新しく掘った穴にはカナリヤの入った鳥籠を吊り下げます。カナリヤは蝋燭の火が消えるかのように静かに、死んで行きます。有毒なガスを吸ったからです。なんだか静かな気分がここち良いのです。

 たまに外へ出ると、雨だったりします。これはこれで良いのです。暗闇に慣れた眼には、太陽が眩し過ぎるからです。千枚通しで眼を刺されたかのような痛みをあなたは経験したことがないでしょう。それほど暗闇の中に居ついたことはないでしょう。それはそれは痛いことなのです。

 炭鉱のいちばん深くにいる人たちには、目がありません。そこには窪んだ皮膚があるだけなのです。仕事はツルハシで穴を掘るだけですから、それでも構わないのです。餌をやるときは、係りの者が、大きめのスプーンで与えます。彼らは食事のあいだも働きます。ツルハシの動きを止めません。だから塩味の利いたどろどろのスープをスプーンで口から流し込むのです。金属のスプーンが歯に当たり、カチャカチャと音を立てます。慣れとは恐ろしいもので、あまりこぼしません。たまに係りの者が面白がって煮えたぎったスープを冷まさずに与えるのですが、驚いた様子もなく飲み干してしまいます。残酷なように見えるかも知れませんが、これでいいのです。彼らのお父さん、お爺さん、そのまたお爺さん、ずっと同じことをやって来たわけですから、彼らにとってそれは自然なことなのです。









by bra-net | 2004-10-04 05:24 | 小説、詩 | Comments(0)
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